ぼくは勇者。

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「……あれから、もう20年になるんだな……。」 今ではもう駐車場。 コンクリートで平らになったその場所の片隅に、『命の実』を一つだけ置く。 「お、やっぱり来てたのか」 そんな私の背後に、二人の青年の影。 「今年も来てくれたんだ。」 「当たり前だろ、俺たちの出会いのきっかけをくれた場所、だったからな」 引っ越して間もないころ。 友達なんていらないと思っていた、あの頃。 老婆の言葉に心が動かされて、初めて出来た友達。 その友達は、『親友』として、20年経った今もこうしてともに連絡を取り合っている。 もめたりもした。 喧嘩もした。 連絡が取れないこともあった。 それでも、今までこうして付き合ってこれたのは、 「勇者は、本当にひとりで戦ったのかい?」 という、老婆の素朴な疑問。 それは、今となっては、面白いほど簡単な疑問で。 「人は、誰だって死ぬときはひとり。でも、長くて辛い人生を歩むのに、『仲間』って本当に大切なんだよね。……この先の人生、何人『魔王』が現れるか分からないし。」 そう。 人は、ひとりで生きていくことは困難。 きっと、ゲームじゃないけど、そういう設定なのだろう。 育っていくのも 恋愛するのも 結婚するのも 育てるのも 看取られるのも どれも、ひとりでは出来ないこと。 老婆はきっと、私に『人生での仲間の作り方』を教えてくれたのだろう。 「……どうした?昔を思い出して、少し悲しくなったか?」 隣で、私をよくからかっていた親友が、また私をからかい始める。 「悲しいことなんてないよ。だって僕は……」 親友たちと、肩を組む。 勇者の剣はもう、持っていないけれど。 助けに行く姫もいないけれど。 行きつけの酒場は、20年前に無くなってしまったけれど…… 「僕は……僕たちは、勇者だから。」
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