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ボロボロの私の様子を見て、心配そうに声をかけてくる老婆に。
「ふん……別に僕が弱いわけじゃないよ!まだレベルが足りないだけだ。それに……」
私は、たまたま道端で拾った、立派な木の枝を振り回す。
「さっき手に入れた、勇者の剣だってあるし!!」
今度戦ったら。絶対に倒してやる。
そんなことを言いながら、目を光らせる私。
「……そんなこと、したらいけないよ」
さっきまで、優しそうに私を見ていた老婆は、うって変わって厳しい表情になった。
「武器を使って人を攻撃するなんて、そりゃぁ暴漢のすることだ。勇者なんてとんでもない。それは、悪者の所業だよ。」
自分を勇者だと言い聞かせ、喧嘩に負けたことをごまかした私にとって、老婆の言葉は腹が立つぐらい真っ直ぐで、正しかった。
「でも……あいつら、大勢で僕のことを攻撃したんだ!戦うには武器しかないじゃん!!」
正論をぶつけられ、私はただ、面白くなかった。それだけだった。
「争わない方法は、ないのかい?」
戦うことばかり考えていた私に。
老婆は、優しく微笑んだ。
「坊やは人間だ。戦う他にだって方法はあるだろう?こうやって、だーいぶ歳の離れたばぁさんと、お話し出来ているじゃないか。それとも……この町では友達は要らないかい?」
本当は、少しだけ寂しかった。
仲良しと家でゲームして。
ゲームセンターで夕方まで遊んでいた、都会の暮らし。
急に田舎に引っ越してきて、知り合いもいない。
遊び慣れた環境なんてない。
友達も、居ない。
私は、寂しかった。
「僕は……勇者だ。ひとりだって、勇敢に悪と戦うよ。」
それでも意地を張る私に。
老婆はまた、微笑んで言った。
「坊やの知る『勇者』は、本当にひとりで悪者と戦ったのかい?」
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