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君の名は2.26
2月も末、まばらに散る降雪に濡れた軍帽を叩きながら、一下士官程度では残飯一粒どころか匂いすら書くことは難しいであろう高級料亭を土足で進む。兵卒が落ち着きなく動き回る廊下は手狭であり、立哨で憑かれた体を休めるには?と歩いているとちょうど中庭で焚き火を焚べている初年度兵を見つけたので縁側に腰を下ろす。冷たい板張りの床と外套の上から容赦なくしみてくる寒さに身を縮めていると初年度兵は湯気立つ飯盒の蓋を慎重に運んできた。
「立哨お疲れ様です。白湯ですがどうぞ」
「すまんな、気を使わせて」
さり際に初年度兵らしい教範通りの敬礼をすると初年度兵はまた焚き火に木材を入れ始めた。
「さーて、どうしたもんかね~」
機関銃隊は日も昇らぬ時間に起こされあれよこれよ言う間に料亭を占拠、自慢の機関銃を玄関に配置すると料亭の周りを完全武装した陸軍部隊が包囲しはじめ、歩哨につくたび倍々に人数は増えていった。なんともやりづらいことにその殆どは見知った顔であるのだ。
「こちとら、何もわからずこんなところに来てるんだ。隊長だって、言ってることが義挙だの昭和維新だのよくわからんことばっかだ」
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