朝、雨、そして情事

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窓を乱雑なリズムで雨粒が叩く。 俺は意識をうつろにしながら携帯の画面を点けた。午前10時30分。 通知欄には放置していたどこかの居酒屋のメールマガジンと聞きそびれたアラームが並んでいた。払い除けるようにそれをフリックする。 まだ外暗いじゃん。 「朝から雨だからだよ。自転車面倒くさいな」 俺はそう返すと、ワンルームのフローリングでふてくされたかのように丸まっているパーカーに手を伸ばそうとしたがやめた。シャワーが先か。 もう休んじゃったら?外、寒くなってきてるし。 彼女はそう言うが俺は「いや、そろそろ行かないとなんかこう、うん」と言葉を濁しつつ、タオルと替えの下着を持って風呂場に向かった。 もう何か月も使わないでいる浴槽は隅のほうに黴が黒い斑点を作っていた。構わず俺は蛇口をひねり、シャワーで情事の汗を流す。血の気が顔に戻り、頭髪の一本一本が息を吹き返したかのような感覚を得る。 体を流し終え、着替えを済ませた後、水道水をコップにとりそれを一気に胃の中へ流し込んだ。胸のやや下のほうからひんやりとした感覚が下りていく。 「じゃ、行ってきます」 誰もいない部屋に声をかける。帰ってきたのは雨粒の音だけだった。
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