月屋本舗

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 オレの名字は日本で1番多い『佐藤』、名前は同世代の男の中で1番多い『誠』という。  名前同様、オレ自身も平凡で何の取り柄もない人間だ。  そんな人間がスポーツ選手や、宇宙飛行士になんてなれるはずもなく、風が吹けば飛んでしまうような小さな会社に就職した。  毎晩、月が天辺を過ぎたころ、足を引きずるようにして家路についている。帰りが遅いのを咎めてくれるような人はいなかった。  狭い道の両側には、一昔前の古ぼけた家ばかりが並んでいる。月のない夜で、薄暗い街灯だけが頼りの道だ。  自分の影を見つめていると、学生時代より随分と横に大きくなったように思う。最近、自分のみすぼらしい姿を鏡で見るたびに、情けないような、侘しいような気持ちになる。 「にゃー」  遠くの方で猫が鳴いた。顔を上げると、民家はおろか街灯すらなかった。 「は?」  アスファルトの地面は土に代わり、暗い林に囲まれている。振り返ると、歩いて来た道も暗く、民家も見当たらない。  道の先は完全に闇。夜空よりも暗い色をしている。  慌ててスマホを見ると、圏外だった。  わずかな灯を頼りに、来た道を戻ってみる。だが暗闇が続くばかりで、戻ったり 進んだりしているうちに、前後の感覚がなくなってきた。 「あ!」
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