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暗闇に紛れるように、人が立っていた。サラリーマン風のくたびれた男だった。
「あの、すいません」
呼びかけに応えない。男は顔を俯かせていて、表情は読み取れない。
「あの!」
顔の前に手を翳しても、肩を揺すっても、反応はなかった。かがんで、男の顔を見る。
男の頬はこけ、落ち窪んだ目は濁っていた。ぼそぼそと呪いのような言葉を吐き、大量の汗をかいている。
「ひぃっ」
どっと汗が噴き出す。逃れるように宛てもなく走ると、急に灯が見えた。オレンジ色の丸い光り。
「助かった……!」
灯りは小さな家の四角い窓からこぼれていた。いくら近づいても、家は大きくならない。それもそのはずで、家そのものがとても小さかった。
レンガ造りの家の横幅は大人が両腕を広げたほどしかない。赤い屋根はかろうじてオレより高いが、焦げ茶色のドアはオレの首ほどの高さしかない。いくらなんでも小さすぎる。
インターホンがないので、ノックをした。反応はなく、仕方なくドアノブに手を伸ばす。ドアの隙間から覗く灯りに、目を細めた。
「誰かいませんか?」
少し待っても、応答はなかった。1歩だけ中に入り、もう1度呼びかける。背後でゆっくりとドアが閉まった。
家の中は、外から見たよりは広かった。だが頭は天井すれすれで、気をつけないとぶつけてしまいそうだ。壁にはずらりと棚が並べられ、中央にはテーブルとイスのセットがあった。家に合わせてか、すべての家具がとても小さい。
見渡すと、壁のそれぞれにドアが1つずつあった。そのうちの正面のドアが、何の前触れもなく開く。
「いらっしゃいませ」
「え……?」
ドアの向こうから、2本足で立つうさぎが現れた。
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