プロローグ

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プロローグ

埃の匂いを混じらせた涼やかなクーラーの風が顔を撫で、部屋の空気へ馴染んで行く。背中にぴったりとくっついていたTシャツの生地も、さらりと乾ききっていた。 窓の外はすっかり暗く、時折通る車の音が、窓を微かに揺らす。人の声は聞こえず、夜が深くなってきていることを時計を見ずとも気づかされる。 目の前に煌煌と映るテレビには見たいものが映っているわけではなく、静かな部屋を少しでも寂しくしないように音を出させているだけである。 ちまちまと発泡酒を飲み進めながら、ぼんやりとテレビ画面を眺め続けていると、次第に音もぼんやりと遠くなってゆき、また、思い出してしまう。 あの日のこと。彼女のこと。 今日のように、アルコールを飲んでいる時が多い。 特に発泡酒。この味を感じると、嫌でも思い出す。 思い出したくないはずなのに、思い出すために本能的に口にする。 彼女は今、何をしているだろう、何処にいるだろう、そもそも生きているだろうか。 心配しているわけではないし、気になってるわけない。 そう自分に言い聞かせながらも、あの日、最後の日、最後に見た彼女の背中が脳裏から離れない。 僕が夢を捨てたあの日。     
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