秘密を知る者

11/17
421人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
「私はその理由が知りたい。その女性の上司である幹部は、とある部隊を率いている。我々が何かしらの行動を起こす際に、残った様々な痕跡を消し、隠蔽し、誤報を流すのがその部隊の役割です」 指でテーブルをつつくことをやめ、手を組み直したアトムを、彼女は全身の震えを我慢して凝視する。 「ちなみに、これは言ってなかったのですが、私もキロロート帝国の人間です。生まれも育ちもあの国、私がナルクマーナの政府機関に所属しているというのは嘘で、髪の薄い教頭先生に名刺を渡したことも嘘……」 唐突な暴露に、彼女の思考は停止した。 「……キロロート帝国の人間らしく、嘘をついてあなたをここに呼びました。ですが、私は今言った、隠蔽工作をする部隊の人間ではありません」 次第に呼吸の荒くなる彼女を尻目に、アトムはテーブルに投げ放ったメダルに触れ、赤い∞が刻まれた表の面を、裏へとひっくり返す。 「あの部隊はデリートと呼ばれています。私は違う……どの部隊にも所属していません、幹部候補になってから、今年で五年目になります」 メダルの裏面には、表と同じ赤で、しかしながら異なる印が刻まれていた。 「残りの歳月を使って課せられた難題を達成しなければ、私はデリートに消されて……いや、殺されてしまう。今ここでこうして、逃げた愚か者を追う仕事をしている時間が、正直に言うともったいない」 蟹の(はさみ)が、愛を表すことで使われるハートマークのように描かれている。それは彼が、組織の幹部候補として、十二人いる幹部達の、誰に仕えているかを示すもの。 「ですが、私はキロロート帝国を離れられてせいせいしてもいる。あなたも知っているでしょう、同じ大陸の国に住む者同士だ。あの国で男として生きていくには、少々酷ですからね」 再びメダルをひっくり返し、元の∞が描かれた面に戻す。 「話を戻しますが、逃げたのはデリートに所属していた人間です。あの部隊は無理難題の達成に失敗した幹部候補を消……殺す役割をも担っている。彼女達は冷酷だ。言いましたよね? デリートが請け負う本来の仕事は隠蔽工作。つまり無能と判断された幹部候補はその仕事の合間、片手間同然に殺される」 メダルを強く指でつつき、尚も力を込め続けているのか、手は震え、指はおかしな方向へと曲がり始めている。 「私は片手間に殺されるのは嫌だ。だから早く仕事を終わらせて帰りたい」
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!