秘密を知る者

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「さて、話を進めましょう。先程、キロロート帝国の名前を出しましたが、この大陸に住む者なら知らぬわけがない。その前に言ったエルカニア王国もそうですが……″七国柱″とはインフィニティという秘密結社を支える七つの国のことを差します」 構わず、アトムは喋り続ける。口髭に触れながら、少し鼻につくイントネーションのまま。 「七つの国は、その名の通りインフィニティを支える柱というわけです。もちろん、組織にとって重要な役割を持っている。七ヶ国共にね」 話を聞く彼女の視線は、アトムとメダルとを何度も往復している。あきらかに不自然な動揺が見てとれるが、彼は″まだ″気にしない。 「伝説の秘宝の存在を信じますか? ああ、いえ……この話は今度にしましょう。インフィニティという組織にとって、キロロート帝国は重要です。十二人しかいない幹部が、二人も在住しているほどにね」 口髭から手を直し、椅子の背にもたれ直してテーブル上に手を組む。 「逃げた女性というのは、キロロート帝国の人間。そして、彼女もまた組織に属する人間だった。メダルは私や幹部と違い、銅色。一般会員を表すものです」 一度目を閉じ、深く呼吸を整える彼女は、意図せずして自分の膝に置いた手を強く握りしめていた。 「しかしながら、その女性はただの一般会員というわけではなかった。キロロート帝国に在住する幹部の内の一人の、直属の部下だった」 口を挟むことは、許されない。彼女は察していた。今まさにこうして、紳士らしく振舞いながら、お喋りを続けている男の、満面の笑みという仮面が剥がされた時、どのような態度に豹変するのかを。 「幹部は皆、その者の業績に相応しい敬称が与えてられています。それを我々はコードネームと呼びますが、この話はいいでしょう。とにかく、その女性は幹部の部下で、キロロート帝国の人間で、女性だったのです」 長らく我慢していたが、彼女の限界は近かった。もう言ってしまいたかった。要領を得ない話はたくさんだと、下世話な都市伝説の内容を借りた妄想は十分だと。 「その女性が潜伏先に選んだ国が、このナルクマーナ。首都近くの郊外であるヘディッシュフルトを選んだのにも、おそらく理由がある」 テーブルを指でつつき、アトムはさらに声のトーンを落とす。
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