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″ナルクマーナ″。世界地図の中央に記載されたフェニムール大陸の内陸に位置し、面積は約35万平方キロメートル。人口は約8千万人。
良き治安に恵まれ、夜景で有名な首都ランプヘンの東に隣接する郊外の街、ヘディッシュフルト。
街並みは至って平凡なものだ。道路はアスファルトに覆われ、煉瓦造りの民家が密集するように建ち並び、西へ近づくほど高層ビルが生え、都会へと近づいていく。
そんな街の、南に位置する場所には小学校があった。
現時刻は16時を回った頃で、数多の小学生達が白塗りの巨大な校舎を後にし、黒く重苦しい正門から外へと出ていく。
その光景を、校舎内二階の窓から見つめ、優しげな眼差しと微笑みを贈る女性が一人。
手入れの施された艶のある黒髪は肩にかかるほど。それを後ろで丁寧にまとめている。淡い赤の眼鏡をかけ、レンズの奥からは青の瞳が覗いており、細身に黒のスーツを着て、手には幾つもの資料を抱えており、腕には青いバッグを下げている。
ネクタイはしておらず、首からは簡易な身分証をぶら下げていた。ステイシー・ミニミルと書かれたその教員証明書には、彼女の顔写真も記載されている。
全ての授業が終わり、教員達は一先ず一息つく時間帯だ。彼女もそうで、窓から正門の様子を眺めることをやめると、固い床の廊下を歩いて進み、馴れた足取りで職員室を目指す。
春も終わりを告げる頃、校内に咲き乱れた花は徐々に散っていき、緑一色となろうとしている。
そんな光景が、廊下を歩く彼女の目の端に映り込み、下への階段を前に窓に背を向け、木々の様子が視界から消えたと共に、小走りで同じ廊下を進んできた小柄な女性が、彼女を呼び止めてきた。
「ミニミル先生……お客さんです」
その女性は、彼女を捜して長い間校内を歩き回っていたのか、酷く息を切らしていた。それとも、急ぎの用なので全力を尽くし、彼女の元へやってきたのか。
定かではないが、いつもと違う光景がそこにはあった。
「お客? 私に?」
彼女は険しい表情で質問を返すと、女性教員は伝えるべき情報を肩で息をしながら伝えてくれる。
客は年配の男性、ヘディッシュフルトの住人ではなく、ナルクマーナ政府の人間だということ。
今は多目的室に通しており、彼女にもそこへ行って欲しいと告げてきた。
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