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その理由と方法が、アトムにはあると。
「その女性が行方知れずとなったのは、M・クラフトが失踪した二ヶ月後、対応に追われていた我々を裏切るようなかたちで忽然と……どこかへ消えてしまいました」
手を組み変えるアトムの言葉をしっかりと耳で拾いあげる彼女は、なぜか満面の笑みで喋り続ける彼の目から視線を逸らせない。
「その女性は、我々にとって大事なものを持っている。正確に言うのなら、それは物ではなく情報です。あの女の頭の中には、決して他に漏れてはいけない情報が詰まっている……」
次第に、アトムの口調は強まっていった。そして不意に、再び上着のポケットに手を入れると、今度は目的の物をちゃんと取り出してきた。
「……失礼、煙草を擦っても?」
彼が手にしたのは煙草の箱と、簡易的なライターだった。
「……それは冗談ですか? ここは小学校の教室ですよ?」
「おっとっと、そうでした。これは失礼」
「喫煙は所定の位置でお願いします。他の皆もそうしているので」
「そういえば、教員専用の自転車置き場に灰皿らしきものが置いてありましたね。ここへ来る途中で目につきました……帰りはあそこに寄らせてもらいましょう。私は部外者で、子供に何かを教える能力はありませんが、あそこを使っても?」
手振りでの謝罪を付け加えた後、アトムは取り出した煙草とライターを元のポケットに戻した。彼女は頷きだけを返し、続きを話し始めるのを待つ。
「ちなみに、ステイシー……ああ、ステイシーと、そう呼んでも?」
「……ええ」
「ステイシーの担当教科は?」
「……理科ですが」
「ほほう、理科ね。難しい教科だ。覚えるのも大変ですが、教える方はもっと大変でしょう?」
「……あの、質問の続きを」
「ああ、そうですね。とにかく、我々はあの女が情報を漏らす前に、なんとしても捕らえねばならないのです」
煙草を直した手で服装を正し、再びテーブル上で組む。
「そこであなたには、ひとつ頼みがあります。今から私が話すのは事の経緯……それをあなたは、口を挟まずに、例え疑問に思ったことがあっても決して口には出さずに、私の話を聞いていて欲しいのです」
「話が逸れなければ」
「そして最後に、いくつか質問します。答えてくれますね? ステイシー」
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