秘密を知る者

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そう言って、アトムは組んでいた手をほどき、丁寧に手入れが施された、自らの口髭を優しく撫でる。 「今の世界は、三つの秘密結社によって牛耳られている……」 声色が、変わった。満面の笑みを貼り付けたまま、アトムは彼女が口を開き、何かを言う前に手で制止する。 「……インフィニティ、月光修道会、-0。誰もが一度は耳にしたことのある都市伝説です。あなたもそうであるはずだ。仮にあなたが、この国の出身であるならね」 彼女は口を開こうとはしなかった。それは彼女が、今の話が軌道を外れていないと判断したことを示している。 「誰もが耳にし、口にしたことのある三つの秘密結社の名は、ある″真実″を知る者にとっては、恐怖を覚えて震え上がり、または怒りを煮えたぎらせるか、または敬服に値にする」 口髭に触れることをやめ、両手を開いた状態で、そっとテーブルの上に置く。 「さて、あなたはどんな感情を覚えるかな?」 それを質問と受け取った彼女は、戸惑いながらも与えられた問いに答える素振りを見せたが、アトムが自身の口に人差し指を当てたことにより、中断せざるを得なくなる。 「今回は、三つの中で最も強大な力を持つ秘密結社、インフィニティについて話をしよう。なぜなら、我々がいるこの……ああ、この場合の我々とは私の所属する機関というわけじゃなく、私とあなた、この学校、つまりはこの国にいる全ての人間を含めて我々と表現しました」 「……それはわかります」 「静かに、えっと……ああ、そうだ。我々がいるこの国も、西に隣接するエルカニア王国も、南に隣接するテムアスも、北も東も、それぞれの方角にずっと、ず~っと続く大陸の、全ての国が……インフィニティの支配下に置かれているからです」 世界的に有名な都市伝説の内容を借りた、突拍子もない話を聞かされている彼女だが、アトムの指示によって口を挟むことは許されない。 「大陸の東海岸にある軍事国家、キロロート帝国だってそうだ。七国柱(しっこくちゅう)という言葉をご存知かな? 確かに三つの秘密結社の都市伝説は有名なものだが、その全容を知る者は少ない。その中でも″真実″を知る者は、極僅(ごくわず)かだ。ちなみにこれは、世界中の人口を踏まえての、極僅かです」 言いながらアトムは、またしても上着のポケットをまさぐり始める。
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