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軽快な音を立て、ラファエルの手から放たれた小石が水面を飛び跳ね、いくつもの波紋を描いて水底へと沈んでゆく。
「わぁ、凄い。」
ラファエルの足元に腰を下ろし、立てた膝に肘をついて彼の石投げを眺めていたエリカが、思わず歓声をあげた。
そんな彼女の賞賛に小さく笑っただけで、ラファエルは大した反応を見せなかったが、、それでもどこか得意そうな顔で、足元からもう一つ石を拾って、エリカへと差し出くる。
「見てばっかいないで、お前もやってみろよ?」
「ええ?」
手の中に落とし込まれた小石を見下ろして、曖昧に首を傾げる。
「いえ、わたしは上手に飛ばせませんから。」
「別に何の競技に出てるわけでもないし、誰が見てるわけでもないんだ。上手くなくても全然かまわねぇだろ?」
「まあ。」
それはそうだ。
それでも、護衛はつけると、エーミールが言っていたのだから、姿を見せないだけで、林のそこかしこ木々の合間の影のどこかには、ラファエルと自分を見守っている誰かがいるのだろう。
しかし、それでも今ここに―――この場にいるのは、自分たち二人だけだ。
今は、その甘く優しい時間にゆったりと浸っていたい。
立ち上がったり、何かをして、その貴重な時を違うものに変えてしまうつもりになれなかった。
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