10.それぞれの愛のカタチ

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 クリスタの横顔には苦痛は覗いてはいなかったが、それでもどれだけ彼女が苦しかっただろうか。  だが、それを押してでもラファエルの傍にいたかったと言ううクリスタ。  そんな彼女が暴発してしまったのは、果たしてなぜだったのか?  「それなのに、あなたは自らの責務を放棄してまでその方を取ろうとした。都を追われても、添い遂げようとされたあなたに、それでもわたしはどこまでもついてゆくつもりでした。なのにっ、それなのに。」  「お前は伯爵家の令嬢だ。下野する俺について来させるわけにはいかねぇだろ?」  ラファエルの声音に宿ったものも確かな苦痛だった。  苦痛と……憐れみ。   姉だと慕った女に愛を請われて応えてやれぬ苦痛と、そんな自分になおも恋着する女への憐れみ。  エリカを伴って辺境の地へ赴任するラファエルについてゆくことができなくても、大公家へと婿入りとなれば、事情が違う。  おそらくエーミールと共に、彼女もまた側近中の側近として、どこまでもラファエルに随従することが許されただろう。  エリカゆえに絶たれてしまったささやかななクリスタの最後の望み。  クリスタから視線を反らしたラファエルが、エリカを腕に抱いたまま彼らに背を向け踵を返す。  「ラファエル。」     
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