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巻き込まれたランバート
砦の案内が終わり、割り当てられた部屋に一時的に戻る事になった。
ランバートは溜息をつきつつ部屋に入る。そして、待ち構えるようにしていた上官をジトリとした目で見た。
「やっぱり、何か困りごとがあるのですね、ウェイン様」
その言葉に、待っていたウェインは苦笑しながら頷いた。
「何か感じてた?」
「ウェイン様がいつも以上に落ち着かなくて暗い顔をしていました。加えてファウスト様の眉間に皺が出来る事が多くなりました。そのタイミングで演習なんて言われたら、何かあるだろうと勘ぐるのが普通です」
「見てるね、ランバート。そっ、困りごと。助けてくれないかな?」
「命令ではなくて?」
「任務でもないよ。正直、上官っていう立場が今回は邪魔で、動きが取れないんだ。こんなに面倒な場所じゃなければ君を巻き込まなくてよかったんだけど」
困った顔で笑うウェインに、ランバートも一つ頷く。そして、すすめられる席に腰を下ろした。
一通り、ここで起こった事件を聞いたランバートは、難しい顔をした。そして思案するように顎を手でさする。考え事をする時の癖だ。
「正直、この場所がどのような場所なのか掴めていません。一つ言えるとすれば、かなり閉鎖的な場所だということです」
「そんなに?」
確認するウェインに、ランバートはしっかりと頷いた。
「案内されている時に感じたのですが、皆が俺たちの事を遠巻きに見ています。近づいてくる様子もなく、無理に近づけば警戒されて逃げられるかと」
「難しいね…」
「…これから夕食ですので、雰囲気を見て紛れ込んでみようと思います。誰か一人でも気のいい奴がいれば、足掛かりにできるのですが」
どこの組織にも、そういう奴は一人くらいいる。ムードメーカーのような、一際明るく好奇心旺盛で、誰にも嫌われていないような奴が。
そしてそういう奴はそれと知らずに情報を持っていたりする。近づいて、上手く話しをすれば馴染めるだろう。そうやって今までも輪を繋いできたのだから。
「今夜、ファウスト様の部屋に。場所は…」
砦の見取り図を出して説明するウェインに頷いて、ランバートはいくつかのルートを頭に叩き込む。そして、「先に行きます」とことわって夕食へと向かった。
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