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復讐者の牙(ファウスト)
ロッカーナは、都市としては小規模だ。だが、重要な拠点である事に変わりはない。
ここは王都に最も近い補給基地であり、兵糧庫。戦が起こり、この町が落ちたら、王都は途端に食糧難となるだろう。
町の奥にある砦に入るとすぐに、壮齢の騎士が出迎えた。
黒にグレーの混じる、ウェーブがかった短髪に、笑い皺のある穏やかな人物。浮かべる表情も同じく、穏やかなものだ。
だが、こちらを見た一瞬の揺らぎには苦しさと悔しさ、そして焦りが見えた。
「ようこそ、ファウスト様。遠路はるばるお越しくださいまして」
「オーソン、久しいな」
丁寧に礼をして迎えてくれた年長の部下を、ファウストは馬を降りて労った。
知っている姿よりも小さくなったように思う。多分、年齢のせいだけではない。とある事件が、彼の穏やかな心をこれほどまでに疲弊させているのだ。
「オーソン老師、久しぶり!」
「おぉ、ウェインか! 久しいな。逞しくなって」
馬を降りたウェインが嬉しそうに駆け寄って、親しげにハグをする。
オーソンは元々王都勤務の騎士で、ウェインが入りたての頃に世話をしていた。本当の親子のような二人を見ると、こんな状況にも関わらず心が穏やかになる。
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