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(いっそのこと死んでしまった方が楽なのかもしれない……)
何度も浮かんでは消える負の思考に、ほとほと疲れ果てていた。
必要とされない自分が消えたところで、誰も気にする者はいないだろう。
助けてくれる人なんて誰もいない。
幼い頃から強いられてきた孤独に慣れてしまった体は、誰かに縋ろうという気持ちさえ起こさせてはくれない。
マイナス思考がさらなるマイナスを引き寄せる。
それは沙月自身、一番よく分かっている事だった。しかし、何も出来ない自分に腹を立てることさえも忘れてしまっている。
そして、生まれて来なければ良かったと何度も思う。
今までの人生、これからの未来に失望し、沙月は自分のデスクに戻ると、額をデスクマットに押し付けるようにして項垂れた。
* * * * *
その日、沙月は残業もすることなく、終業のチャイムと共に会社を出た。
デスクの上に積み重ねられた書類は嫌でも目に入る。しかし、それをこなすほどの体力も精神力も今の沙月には残ってはいなかった。
しかし、そのまま自宅アパートに戻ったところで何が変わるわけではなく、ただいろいろと考え込んでしまう事が嫌だった。
ただぼんやりと歩き、駅前通りに面したコーヒーショップの看板の前で足を止めて、何も考えることなくふらりと店内に入る。さほど飲みたくもなかったが、とりあえずアイスコーヒーを注文し、窓辺に面したカウンター席に座った。
夕方ともあり、店内は学生や仕事帰りのOLやサラリーマンで混み始めていた。
ストレートで口に含んだコーヒーの苦みに一瞬顔を顰めたが、しばらくするとその味さえも曖昧になっていく。
精神的苦痛は沙月の味覚さえも麻痺させていた。
「もう……辞めようかなぁ」
何度も口に出そうとして、それでも必死に我慢してきた言葉がついに堰を切ったように零れてしまった。
今の会社に在籍していたところで未来は見出せない。それよりも自分の精神がこれ以上耐えられる気がしない。
限界を超えて壊れてしまう前に何とかしなければ……。
絶望の淵に立たされ、今にでもダイブしてしまいそうな自分を何とか鎮めようと、スーツの上着のポケットから取り出したスマートフォンを指でスクロールしながら、無意識に求人情報のサイトを巡っていた。
「――あの。隣、いいですか?」
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