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綺麗な唇を綻ばせて上着の胸元から名刺入れを取り出すと、慣れた手つきで名刺を差し出した。 その動き一つをとっても無駄がなく実にスマートだ。 沙月はそれでも訝しげな視線を向けたままそれを受け取って、上質紙に印刷された文字を見つめる。 「――企業コンサルタント?自己啓発チームリーダー、一条(いちじょう)真琴(まこと)……さん?」 聞き慣れない肩書きに首をわずかに傾ける。 大学の友人で何人かはこういう企業に就職したと聞くが、三流――いや、それ以下のブラック商社に勤める沙月には縁のない会社だった。 しばらく名刺を眺めていたが、相手に一方的に挨拶をさせていたことに気付くと、慌ててポケットを探り自分の名刺を差し出した。 「W商事営業部の芝山です」 長い指先で丁寧にそれを受け取った彼は、本革の名刺入れの上に乗せてカウンターに置いた。 その仕草の一つ一つに無駄がなく、多数の顧客を持つやり手なのだろうと窺えるほど手馴れていた。 「先程から何か悩んでいるご様子でしたので、何かご相談に乗ることが出来ればと思ったんですよ。仕事柄、あなたのような方々を何人も見てきていますから、放っておけなくて……。もっとも、プライベートな事で話したくないというのでしたら詮索はしませんが」 「――私はご覧の通り三流商社のしがない営業マンです。一流企業を相手にする企業コンサルタントのあなたにお話しするようなことは何もありませんが……。自分で事業を起しているというのなら話は別ですが」 「いえ……。ビジネスの話をしようというんじゃないんですよ。ただ、あなたが思いつめた顔をして……放っておいたら自殺でもしかねないって心配になったものですから。――あ、すみません。余計なお世話ですよね?初対面の、しかも見ず知らずの男に身の内話なんて出来るわけがありませんものね。本当にすみません。ビジネスでもそうなんですが、あなたのような方をどうも放っておけなくて……。普段からは気をつける様にしているんですが、顧客の情に流されて的確な判断が出来なければコンサルタント業務なんて務まらないですよね?」 少し照れたように苦笑いを浮かべながらコーヒーを飲む彼に見惚れている自分がいた。
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