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「あなただから、何とかしたいんですよ。連絡を頂ければ、あなたとの約束は最優先します。私に全部任せてくれませんか?」
長い指先が沙月の手に触れ、そっと握りしめる。色白で長く、手入れの行き届いた指先はやけに冷たかった。
「本当に……信じていいんですか?」
掠れた声で言った沙月の耳元に顔を近づけた一条は低い声で囁いた。
「――そうだ。俺だけを見ていればいい」
心臓がトクンと大きく跳ねる。体中の血がざわざわと巡り出すのを感じてブルッと肩を震わす。
無意識に触れた首筋に微かな熱を感じて、大きく見開いていた目をぎゅっと閉じた。
(この声、どこかで……)
思い出そうとして、こめかみにツキン……と微かな痛みを感じた。
「どうかしましたか?」
「あ……いいえ。なんでもないですっ」
微笑んだ彼は、自分のアイスコーヒーのグラスを載せたトレーを片手に立ちあがった。
「では、いい返事をお待ちしていますよ。芝山さん……」
ブリーフケースを手に持ち一礼すると、サービスカウンターの女性スタッフに「ごちそうさま」と柔らかく微笑んで颯爽と店を出ていった。
人の往来をまるで気にしないフットワークで歩いていく彼の背中が人込みに消えていくまで目を逸らすことはなかった。
彼が纏う甘い香りがまだ余韻を残すこの場所で、沙月はアイスコーヒーを一気に飲み干した。
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