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兄の泉もどちらかと言えば女性的な雰囲気を持っているが、沙月の目の前にいる青年はどこか野性的でしなやかな獣のような美しさを持っていた。
陶器のような白い肌に、日本人でありながら彫りが深く目鼻立ちはハッキリしている。睫毛も長く、スッと通った高い鼻梁がより端正な顔立ちを引き立たせていた。
感情さえ見出だせなかった二重瞼の奥の黒い瞳が沙月の姿を鮮明に映している。
「――初めてだよ。そんなこと言われたの」
照れ臭そうにはにかみながらそう言った沙月に、彼もまた少し俯き加減のまま呟いた。
「俺も誰かに対してこんなことを話したのは初めてだ。お前となら、楽しく生きられるかもしれないな」
「え……?」
彼の両手が沙月の肩を優しく引き寄せた。柔らかい黒い髪が頬をくすぐる。
青年は沙月の小さな耳に唇を寄せると低い声で囁いた。
「――俺のモノになるか?沙月」
ざわりと全身が粟立ち、沙月は言われている意味が分からずに動きを止めた。着ていたシャツの襟元を指先で広げる彼の指の動きに息を止める。
襟の隙間から露わになった白い首筋に、彼は鼻を擦りつけるようにして息を吸い込んだ。
「贄家、芝山の血……。お前のは誰よりも甘く、まるで俺を誘っているようだな」
「なに……言ってるの?」
「お前がやめろと言うのなら見知らぬ相手とは結婚しない。その代わり……お前を俺のモノとして縛り付ける」
冷たい舌先が項を這うように動くと、沙月は目を大きく見開いたまま体を硬直させた。
まるで何かの生き物のような動きをする彼の舌を感じるだけで、全身の感覚が鋭くなっていくのが分かる。
「いや……」
小さく首を振ってみるが、しっかりと掴まれた肩は動かすことも出来なかった。
「この俺を欲情させるとはな……」
沙月がまだ小学生であることは重々承知している。それなのに、彼の血の香りに本能が抗えずにいる。
飢えているわけでは決してない。それなのに抑え込んでいる本性が彼を求めて顔を覗かせる。
もしも、自分の本当の姿を知ったら……沙月は恐怖に慄くであろう。
青年は沙月の背に両手を回し、抱きしめるように指を食い込ませた。
「う……っ」
沙月が小さく呻く。その感触はまるで獣に爪を立てられているように硬く、わずかな痛みを伴っていた。
そして、肩に頭を寄せる様にしている青年の漆黒の髪が透き通った銀色に変わっていくのを見た時、初めて“怖い”と感じた。
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