電車

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 夏の陽は六時を過ぎてもまだ落ちなくて。川面に映る夕日が反射して、また明るくなったような気がする。  なんて、外を見て景色を綺麗だなんて思ってないと……夕方ラッシュは耐えられない。  仕事疲れのサラリーマン,部活帰りの汗をかいたままの学生,OLの蒸発しきれてない香水の香り。息苦しくて頭が痛い……つまらない毎日が余計憂鬱になる。  僕は窓際のコーナーに身を置いている。いつも逃げ込むテリトリー。  首だけ出入り口の窓を見て煩雑している車内から目を逸らし、ただ自分の駅に着くのを待っている。退屈で苦痛な時間。  特急だから後二駅の我慢だ。ちんたら走らないスピードが滅入った気分を少し助けてくれる。 「あ」  窓に一筋の雫が付いた。  雨? 夕日は全く変わりなく街の色を変えているのに。ばあちゃんが言ってたな。こういうの、きつねのよめいりっていうんだっけ。次第に強くなってきた。  電車の速度に弾かれた雨粒が、窓ガラスに残像だけを残してゆく。余りの勢いに、ガラスを突き抜けて自分に降りかかって来る錯覚に陥る。  この暑苦しい蒸し返す様な不快感も、スコールの様なこの雨に打たれれば凌げそうだ……浴びたい。気持ち良さそうな雨粒を目で追って気分を晴らす事にした。 「え……」  雨粒に重なり、僕の目に飛び込んだ。景色とは反対の、ガラスに映る現実の世界。  人ごみの中、人をかきわけ近づいてくる姿。  うそだ……信じたくない気持ちを整理付けられないまま  とうとうやってきた。僕の後ろに。 「先輩」  息がかかる程耳に近づけて囁かれた一言に、僕は背筋の神経が一気に逆立った。 「佐野……どうして……」 (何でこんな所に!) 「久し振りですね」  笑っているけど、瞳の奥は笑っていない。 (怖い)  久しぶりに見る、この瞳だ。二重だけれど細めの目。  綺麗な顔の作りに華奢な顎の所為か笑うと幼く可愛く見える。背は僕より高いけど、何の運動もしていない身体は細く、体型はあまり変わらない。  見た目は一つ年下の可愛い後輩。そう、見た目は。 「偶然会えて嬉しいな」  周りが聞けば、他愛無い先輩後輩の会話。  けれど……偶然な訳がない。その証拠に、目が怒ってる。僕には、判る。こめかみに冷たい汗が湧き出てきた。 (ヤバい)  コーナーに張り付いた僕の身体に一分の隙もない程密着させ、腰を摺り寄せられる。  向き合っているから、足も腰も胸も、全てが絡み付いて来た。身体を逸らそうにも、身動き取れない。 「な、何、」  佐野の行動に思わず声が出てしまう。膝を割られて、間に足をねじ込まれた。佐野の身体が少しずつ僕を侵食してゆく。 こんな所で何考えてるんだ! だから怖くてお前を避けてた…… 既に張り詰め変化した佐野のモノが、僕の下腹部に当たる。固くて熱くて、忘れてた身体が思い出しそうになってきた。脈打つ佐野を否が応にも感じてしまう。そんな自分が限りなく情けない。 「止めろょ」  首を擡げ、僕の肩に顔を埋めている佐野だけに聞こえるように、無駄とは解っていても懇願する。 「何を?」  佐野は顔を上げて、涼しい笑顔で僕を見た。 佐野は……楽しんでる。僕が困れば困るほど、嬉々とする。そういう奴なんだ。  願わくは、最悪でもこのままの状態だけなら……という僕の僅かな願いは打ち砕かれる。電車がカーブを曲がり、激しく揺れた反動で、佐野の左手が僕の後ろに回された。 (信じられない。馬鹿じゃないのか?!)  布越しに尻の割れ目をなぞられる。繊細な指に強弱を付け、撫で上げられる。その感触に身体が硬直する。 「っ!」  制服を突き抜ける程の勢いで、指を立て後穴に捻じ込まれた。  足がガクガク震える。揺れに任せて、佐野がくっつけた腰を上下に動かして来た。  布越しに性器が当たり合って、微かに擦れ合って……僕だけに大きく聞こえる衣擦れの音が、僕の感覚を更に刺激する。段々気が変になる。 (悔しいけど、感じてる) 佐野の足を跨がされ乗せられてる僕は、多分誰よりもみっともないんだろうな……考えると惨めになった。  こいつの悪戯はもう諦めた。けれど、既に勃ち上がってしまった自分のモノだけはどうにかしないと。 (佐野にはバレてるのだろうか? 喜ばせるだけだ。嫌だ、嫌だ)  鞄を前に挟み込み、隠そうと手を前にした瞬間、二の腕ごと捻じり上げられた。 「先輩大丈夫ですか?揺れて危ないんだから手すり持たないと」  周りにわざと聞こえる声で、普通の言葉を投げかけられた。  僕の手を導き、コーナーに有るてすりを握らせる。腹の底から憎たらしい佐野を、僕は思いっきり睨んだ。  瞳が、本気で笑ってる。 「なんで隠すの?感じてるくせに。本気で怒った。もう許してあげない」
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