電車

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*  *  *  がらんとしたホーム、日が落ちて雨がやみ下がった気温が、僕の火照った身体と頭を冷ましてくれる。 「お……お前!」  電車内で信じられないことをするこいつ……あんなのただの痴漢行為……許せないのはこっちだ。 「先輩、どうするの?」  人の怒りを全く無視して佐野は髪を掻き上げ、可愛らしく小首を傾げながら僕に聞いた。 「どうするって何を」 「それ」  佐野は僕の下半身を指差した。言われて漸く皮膚に伝わる感触に気付く。  風が吹く度少し冷たい。また頭がカッとなった。恥ずかしい。先走りのせいで股間が濡れているんだ…… 「制服グレーだから、良く目立つね」  佐野は楽しそうに笑っている。 「それ、水分じゃないから、乾くと余計目立つ染みになるよ」 (最低だ。どうしたら……) 「隠して帰って家で洗う?一人で干す?」  家に帰れば、母さんも妹も居る。僕、今まで洗濯なんてした事ないのに。 「しょうがないなぁ先輩。家おいで。うちは親、夜まで帰ってこないし、乾燥機もあるから」 そういうと佐野は、僕の手を握った。 (“しょうがない”って!? 何で佐野に親切で良い事した面されてるんだ、お前の……) 「お前のせいじゃないか!」 「先輩、自分のせいだよ。なんで、俺を避けたの?……言ったろ、『許さない』って」  細い体のどこにそんな、と思う力で引っ張られる。僕は逆らえなくて、とりあえず慌てて鞄で前を隠した。  あんなに降ってた雨は、上がっている……まだ降ってれば、雨に当たれば、僕の汚れも流してもらえたのに。佐野の手に引かれないで済んだのに。  僕は情けなく掴まって、言うこと聞いて連れられる。 観念して大人しく歩いている僕に満足したのか 「久しぶりに会えたけど。先輩、相変わらず可愛いね」  嬉しそうに振り向き囁いた佐野は、繋いでいる僕の手に優しくキスをした。  何故か胸が締め付けられた。 やっぱり佐野が判らない。  判りたいのか,判りたくないのか……自分の気持ちも解らないまま僕は、水溜まりを飛び越えた。  
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