28人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
がらんとしたホーム、日が落ちて雨がやみ下がった気温が、僕の火照った身体と頭を冷ましてくれる。
「お……お前!」
電車内で信じられないことをするこいつ……あんなのただの痴漢行為……許せないのはこっちだ。
「先輩、どうするの?」
人の怒りを全く無視して佐野は髪を掻き上げ、可愛らしく小首を傾げながら僕に聞いた。
「どうするって何を」
「それ」
佐野は僕の下半身を指差した。言われて漸く皮膚に伝わる感触に気付く。
風が吹く度少し冷たい。また頭がカッとなった。恥ずかしい。先走りのせいで股間が濡れているんだ……
「制服グレーだから、良く目立つね」
佐野は楽しそうに笑っている。
「それ、水分じゃないから、乾くと余計目立つ染みになるよ」
(最低だ。どうしたら……)
「隠して帰って家で洗う?一人で干す?」
家に帰れば、母さんも妹も居る。僕、今まで洗濯なんてした事ないのに。
「しょうがないなぁ先輩。家おいで。うちは親、夜まで帰ってこないし、乾燥機もあるから」
そういうと佐野は、僕の手を握った。
(“しょうがない”って!? 何で佐野に親切で良い事した面されてるんだ、お前の……)
「お前のせいじゃないか!」
「先輩、自分のせいだよ。なんで、俺を避けたの?……言ったろ、『許さない』って」
細い体のどこにそんな、と思う力で引っ張られる。僕は逆らえなくて、とりあえず慌てて鞄で前を隠した。
あんなに降ってた雨は、上がっている……まだ降ってれば、雨に当たれば、僕の汚れも流してもらえたのに。佐野の手に引かれないで済んだのに。
僕は情けなく掴まって、言うこと聞いて連れられる。
観念して大人しく歩いている僕に満足したのか
「久しぶりに会えたけど。先輩、相変わらず可愛いね」
嬉しそうに振り向き囁いた佐野は、繋いでいる僕の手に優しくキスをした。
何故か胸が締め付けられた。
やっぱり佐野が判らない。
判りたいのか,判りたくないのか……自分の気持ちも解らないまま僕は、水溜まりを飛び越えた。
最初のコメントを投稿しよう!