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大好きな莉子先輩
日勤者に申し送りをすませ、更衣室で着替えていたら、二歳年上の田中莉子先輩が下着姿のまま、スマホの画面を見つめてため息をついた。
「つまんな。 アパート帰りたくなーい」
莉子先輩は不機嫌に呟きながら、少し乱暴に透ける黒のチュニックを着た。
肩までの赤っぽいブラウンの髪は軽くウェーブがかかっている。
「宏樹ってば、今日は休みで家にいるって言ってたのに急に仕事だって。ほんとかよって、ねぇ彩矢、絶対に嘘だと思わない?」
急遽ヒマになった莉子先輩に、なんて返事をすればいいのかわからなくて、一瞬戸惑う。
「え~ そうかな。でも宏樹さん嘘つくような人に見えませんけど。優しそうだし、莉子先輩にぞっこんって感じだし……」
白衣を脱ぎながら疲れた頭で懸命に急用を考えている自分がいた。
「優しいのはわたしだけじゃないんだよね、宏くんは。誰にでも優しくて断れないんだよ。浮気ではないと思うけど、絶対に仕事じゃないよ」
「浮気じゃないんなら、まあ、いいじゃないですか。友達付き合いも大切だし、莉子先輩、許してあげたほうがいいですよ」
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