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莉子先輩のご機嫌をうかがいながら、宏樹さんをかばう。
「そーだけどね。だってさ、アパートに帰って寝るだけってつまんないじゃん」
眠ること以上に幸せなことが他にあろうか?
救急車が三台も搬送された夜勤明けで、一睡もできず、疲れすぎて脳がカスカスになっているという、こんな日に。
「莉子先輩、夜勤明けなのにいつも元気ですよね。私は母と買い物に行く約束をしちゃって」
誘われる前に、自分の用事を伝えることができて、ひとまずホッとする。
母と買い物の約束をしていたのは事実だけれど、午後からであることは言わずに黙っていた。
以前、夜勤明けにボーリングに誘われたことがあった。ボーリングの玉よりも重い朦朧とした頭でガーターを連発し、メチャクチャなスコアを出してヘロヘロになって帰宅した。
” 朝マックを食べて帰ろう ” と誘われた日は、その後カラオケにも誘われた。
ひとりカラオケ状態の莉子先輩の横で、レザーの長椅子に横たわり、大音響の中でずっとウトウトしていた。
「ふ~ん、お母さんと買い物なんかして楽しいの?」
「楽しいってわけじゃないですけど……」
小声でボソボソと返事をする。
呆れたように鼻歌を唄いながら、ボロボロの穴あきデニムをはいた莉子先輩がロッカーを閉めた。
慌てて生成りの膝丈ワンピースを着て、一緒に更衣室を後にした。
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