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桜並木を通り、樹の足取りは大学の外へ向かっていた。
「え? 部室行くんじゃないんですか?」
美桜が怪訝な顔で訊ねた。
「部室だよ。大学公認じゃないサークルは、大学内に部室を作ってもらえないから、外を使うんだ」
連れて行かれた場所は、普通のマンションの一室だった。
「ここ……ですか?」
男の人にマンションに連れてこられて、美桜もさすがに不安になった。そんな美桜の手をタケルが自然に握り締めた。
「俺がいるから、大丈夫」
そんな様子に気づいたのか気付かなかったのか、樹はドアを開けた。鍵はかかっていなかったらしい。
中には数人の男子生徒らしき人達がいるようだが、玄関からはよく見えなかった。
「おお、樹! え? 何? お前もう新入生連れてきたの?」
一番に目に入ってきたのは180cmはあるだろう、身長も高く、ガッシリとした体格の男子学生だった。ついでに声も大きくよく響く。なかなかイケメンでもありこんな体育の先生がいれば、体育の授業も楽しそうだと美桜は思った。
「はい。大地先輩。入部希望者です。倉本美桜ちゃんと、えーと……タケルくんです」
「え!? 俺たちまだ入部するとは……」
タケルが異議を唱える。
「タケルかコケルか知らんが、もう、この部屋まで来たら、入部も同然。おい、部長、部員名簿の用意!」
大地先輩と呼ばれたその大柄の男子学生が言った。が、誰も動く様子はない。
「……大地先輩。今の部長は大地先輩ですよ」
玄関側の壁にもたれた一人の男子生徒が冷静に答えた。美桜たちのいる玄関からでは顔はよく見えないが、茶色がかった髪がふわりとなびいたのが目に映った。
「あ? 俺だっけ? つい最近も俺じゃなかった?」
「大地先輩、じゃんけん弱すぎるんですよ」
この部はじゃんけんで部長を決めるのか。美桜は愕然とした。
「じゃあ、名簿っと。これに学部と名前と連絡先、書いてくれる?」
「あ、はい」
ずっと玄関に立ったままだった美桜とタケルはよく響く大きな声に気圧されて、靴を脱いで部屋に上がり、名簿の置かれたテーブルに向かって歩き出した。
「――ちょっと、キミ!」
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