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深々と頭を下げる母を見て、僕より先に言葉を発したのは、先ほどから言葉を発しようとしては飲み込んで、を繰り返していたマスターだった。
「柚希は今どうしてるんですか!?」
「私たちも長いこと会っていないのですが……リハビリの甲斐もあって、今は一人で暮らせるくらいには、落ち着いた生活を送れているみたいです。たまに、電話をくれて。私たちも和希の写真を送るようにしています」
「そうですか……」
安堵と悲しみがごちゃ混ぜになった顔でマスターはうつむいた。
「和希、あなたは本当は捨てられたわけじゃないの。あなたを産んだお母さんは、ちゃんとあなたを愛していた。いつでもそのことを和希に教えてあげられたのに、柚希ちゃんと和希がお互いのことを求めたら、私たちは必要なくなるのが怖くて言えなかった。ごめんね」
覚悟を決めたように言う母に僕は少しだけ悩んで
「話してくれて、ありがとう」
と返した。
自分が愛されていたという事実だけで、僕の心は少し軽くなったような気がした。
「心配かけて、ごめん。明日からちゃんと学校行くよ」
その言葉を聞いた母の涙が安堵によるものなのか、はたまた拍子抜けしただけなのか。
僕には分からなかった。
でも僕が流した涙は、二人の母と、父の愛に対する感謝だったように思う。
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