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その日から、僕は毎日学校に行くようになって、早くも一か月が経とうとしていた。
久しぶりの登校初日、委員長のおせっかいに
「俺、幸せだから同情はしないで」
と言った時、複雑そうな委員長の顔とは裏腹に、啓人たちは安堵の表情を見せた。
そして、あの店は2週間前から僕のバイト先へと変わった。
「バイト雇うほど、余裕ある店じゃないんですけどー」
と美緒が頬を膨らませるとマスターは
「大丈夫、秘策がある」
と僕たちの前に試食用と思われるプレートを置いた。
僕はいまいち状況を理解できず、問いかけた。
「おじいちゃん、何これ?」
「柚子はちみつ、柚子ジャム、柚子バタートーストに……」
「全部、柚子にしたんですか?」
美緒の言葉にマスターは
「いつ、帰ってきてもいいように。外に“看板メニュー”って貼っておこうかな、ってね」
僕と美緒はその言葉に目を見合わせて笑った。
僕がすべてを知った日の夜、母は僕のもう一人の母に電話をかけたと教えてくれた。
「会いにきてあげて」
というと、電話の向こうの母は
「はい……」
と声を震わせて泣いていたそうだ。
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