ほんの一部、夢の途中

3/3
130人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
まだ何か続けて言おうとする彩綾の唇を唇でふさぐ。 もう何も言わないでくれ。 死んでしまいそうに苦しくなる。 そのかわり、たっぷり甘えてくれないか。 腕が余って仕方ない。 「ちゃんと布団に行こう。いいね」 抱き上げると 彩綾を包み込む。 愛らしい。キミは本当に可憐なひとだ。 ちゃんと布団に入れた。 本当は全部見て確かめたい。 だけど風邪をひかせたくないから。 華奢な肩を両手で温めた。 どうか苦しまないで、愛おしいひと。 本当の俺は気性が激しい。 それがわかっているからなおさら優しくなりたいんだ。 横たえた彩綾の腕が折り曲がり 指を握りしめている。 そんなに力をいれなくていい。 声を出して聞かせてほしい。 指の一本一本を小指から絡めて。 唇をふれあわせ。 おずおずと応えてくれる舌… ずっと願っていた、おやすみのキス 寝入りしな、はしたなくも夢を見ていたキミとの逢瀬。 「…はぁ…はぁ…」 彩綾があえぐ。 俺の指を握りしめているから 唇でしか進めない。 「あっ」 指でまさぐりたいのに。 「あっ。湊一郎さんっ湊一郎さんっ湊一郎さんっ」 恥じらう彩綾は逃げるように身をひねる。 指がほどけた瞬間 大胆にも背中を抱き 思い切り引き寄せた。 「あ」 首の後ろに回る彩綾の腕。 「あっ。…っ」 水音が指で跳ねる。 「彩綾…っ」 俺の声が掠れた。 「あ…っ…」 愛しい女の どこよりもやわらかく深い場所。 「もう、いいか?」 「…っ」 しがみつく彩綾。 それが答えになる。 「ん…っ」 膝裏を持つ。折り曲げた。彩綾は親指を強く噛み、耐え忍ぶ。 苦しげな表情 開いた唇 「ん…っ」 俺は今、長く憧れた女に抱かれている。 包まれている幸福感。 やわらかく、複雑にうごめく襞。 キミを愛してる。 愛してる、彩綾。 初めて出会った時から……… 鳴く声。 引き裂かれるような哀願。 許せ、彩綾。 押さえきれない。 「あっ…ぅああ……ンん…っ」 どくんどくん、と音がする。 はあはあ…はあはあ… まるで太古の海のよう。 「彩綾…」 「ん……湊一郎さん……」 かわいい。 愛らしい。 我慢させてすまない。 だから甘えてくれ。 腕に抱きくるむ。 もう離さないから。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!