桜色の宵闇

2/2
115人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
【桜色の宵闇】 お店で食事をすると、いつの間にかお会計されてしまう。 「あの…私が…いつも申し訳なくて…」 「いや。もう済んだ」 「じゃ、じゃあ次こそは…」 「ああ」 世にも優しい微笑みを浮かべている湊一郎さん。 ふわりとしていて、私は心ごと包まれる。 いつもいつも私を甘やかせる、深い声や醸し出す空気… お店のドアを開けようとする。 やや重い。 「…!?」 後ろから手がのび、取っ手を支えてくれる。 斜め下からすくうように見上げたら 同じように私を見下ろしている湊一郎さんの瞳が見えた。 こんな時…。 彼がたまらなく愛おしい。 何もかも出来て しっかりしている きちんとしたひと。 私などいなくて大丈夫。 それなのに何かしてあげたくなるのは何故だろう。 大人だ、湊一郎さんは… 真摯で少し不器用で。 だけど圧倒的に大人なのだ。 やや、霧雨降る街が桜色に浮かび上がる。 静かでノスタルジックな景色…。 「帰ろう」 「はい」 階段を降りる。背中が少しも揺れない。 自然につながる指 ほのかに暖かい。 冬の中に春を宿しているかのよう。 ああ、私… また湊一郎さんを好きになってる…
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!