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三年半付き合った恋人は、ついさっき奈緒子に別れを告げた。
「自分は君と結婚した未来を想像できない。嫌いになったとか、他に好きな人が出来たとか、許せないことがあったとか、そんな理由じゃないんだ。奈緒子が結婚を望んでいるのも薄々わかっている。でも、この気持ちは未来永劫変わらないと思う。だから、結婚できない以上、三十歳になる前、二十代のうちにお互い自由の身になるのがいいと思うんだ。本当に申し訳ないけれど。」
翔平は練習してきたセリフのように一気にそれだけ言い切った。
居心地悪そうに自分のつま先をしばらく見つめていたが、しびれを切らしたように、奈緒子の顔を覗き込んだ。
理由はない。つまり修復のしようもない。そのうえ、未来永劫気持ちは変わらない。
そこまで言われて、追いすがれるほど、図太くも、可愛くもないということを奈緒子自身が一番よくわかっていた。お互いに自由の身って、翔平は今まで自分との付き合いを不自由と感じていたんだろうか。結婚したいだなんて、そんなこと表には微塵も出さないようにしてたのに。
ぐるぐると思考はまとまらなかったが、
「そう、わかった。今までありがとう。」
出来るだけ感情のこもらない声で言うと、翔平はほっとしたような、曖昧な笑顔を浮かべた。
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