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三人も乗れば満員になるくらいの小さなエレベーターに一人で乗り、扉の開いた先はいきなり店内だった。
柔らかく暖かな色味の照明。テーブル席が四つほどに、あとはカウンターがあるだけの小さな店だ。そのテーブル席の一つに、楽器を持った三、四人がいる。ちょうど曲を終えたところらしく、見慣れない異国の笛を持った男性が客に向かって頭を下げているところだった。
カウンターの一番端が空いていたので、そこに腰掛ける。
「いらっしゃいませ」という言葉とともに店主と思われる蝶ネクタイの男性がカウンターの中から飲み物のリストを手渡してきた。それぞれに詳しい説明が書いているようだが、あまり読みもせずに、何となく、この店の店名にもなっている外国のビールを注文した。
程なくして、グラスと、瓶のままのビールが運ばれてくる。
翔平は、ビールを注ぐのがとても上手かった。
考えまいとしているのに、奈緒子はちらりと頭の片隅で思ってしまう。学生の頃、居酒屋でアルバイトしていたから得意なんだ、と言っていつも完璧な比率でビールをグラスに注いでくれていた。だから、自分でビールを注ぐのは、久しぶりのことだ。
次の演奏が始まるのを待ってから、一口飲んでみた。
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