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ひとり、そんな風に悩んでいたある日。
ソファの定位置に身を沈めて、何も映していないテレビを眺めていた私の隣に瀬名が座った。
「ユキ、ちょっと大事な話をしよう」
「……別れたくないよ」
「勝手に別れ話にしないでよ。私だって別れたくない」
「そっか…うん、ありがとう」
瀬名が別れたくないって思ってくれていることが、素直に嬉しくてお礼を言ったら、瀬名は「何でお礼?」って苦笑する。
そうやって、別れないでいること前提の態度をしてくれる瀬名を見てると、嬉しいのに、同時に申し訳ないような、罪悪感のような気持ちも渦巻いてもやもやした。
「話、なんだけどね。ちょっと手をかしてくれますかね?」
「ん?何かあった?私で手伝えるかな?」
できることならしてあげたい、と思って聞いた私に、瀬名は目を丸くしてから言いにくそうに口を開いた。
「えっと…そうじゃなくてですね…、その…ユキ、手を出して、ください」
「へ?こうでいいの?」
聞き手の右手を差し出した私に、瀬名はがくっと項垂れてから、赤く染めた頬を上げて、私の左手をとる。
「そっちなの?」
「…うん」
重なった手を見つめて固まる瀬名がいつもと違っていっぱいいっぱいそうに見えて、私は右手で少し上の瀬名の頭をわしゃわしゃと撫でまわす。
「っ、ユキ?」
「瀬名、なんか可愛いから撫でたくなった」
「…もう」
眉を寄せて微笑んだ瀬名は、いつもの瀬名に戻ってて、重ねた手も、大好きなあったかい手に戻っていた。
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