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三笠と二人、運ばれてきた昼食に手を付ける。
この店の出す料理には、必ず桜が使われているらしい。
見た目から判断しやすいスイーツなどはわかるのだが、ランチなどの軽食メニューにおいては、どこにどう使われているのはまったくわからない。
一見普通の料理に見える品でも、ちゃんと桜が使用されているというのが、食べた瞬間にわかるのである。
色付け、風味、香り、そのいずれかに必ず用いられている桜の、このカフェ独特の味は、悔しいが、五百旗頭でも認めざるを得ないほど、癖になる味なのであった。
「ね? 美味いでしょう!」
無言で食べ進める五百旗頭を見て、気に入ってくれたんだなと思った三笠は、満足気に言った。
それなりに量はあったが、昼休憩という時間制限がある三笠たちが食べ終えるのは早かった。
午後の仕事に戻るべく、さっと席を立ち、三笠は伝票を持ってレジへ向かう。
レジに立った小柄な店員を、何故か五百旗頭が忌々し気に睨みつけたので、なに店員さんにガン飛ばしてんですか、と三笠はたしなめる。
残念ながら五百旗頭がおごってくれないので、三笠は支払いを別々にお願いした。
それから、一枚の写真を取り出して、小柄な店員に訊ねた。
「……あの、店員さん、ちょっと聞きたいんだけど。このカフェにこんなヤツ、来たことないか?」
その写真に写っているのは、三笠の友人であり、また元同僚である、現在音信不通で失踪中の青年だ。
「名前は、晴海」
「いえ、存じません」
写真をチラリと見た小柄な店員は、短くそう答える。
「本当に? 少しくらい、心当たりはないか?」
対応があまりにそっけなかったので、三笠は思わず食い下がった。
「申し訳ありません、お客様。当店では、店員及びお客様に関する個人情報は、お教えできない規則なので、ご了承ください」
「そうか……」
申し訳なさそうな表情だが事務的な口調でキッパリと告げられ、三笠は肩を落とした。
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