3人が本棚に入れています
本棚に追加
キジマは三年で仕事を辞め、自分が卒業した大学へ、院生として再入学した。
働いていた三年間は、夜や休日に、アパートの自室で木を彫った。
愛して愛して愛してとは思っていたが、誰かを愛したいとは思っていなかった。また、寂しい寂しい寂しいとは思っていたが、誰かと一緒にいたいとは思っていなかった。
キジマが愛してとか寂しいとか思うのは、木を彫っている時だった。大学の中では、例え誰とも話さず一人で作業していたとしても、周囲の人間は必ず何かをつくっている者で、周囲の環境はつくる為の環境だった。しかし一般社会ではそれは少数派で、キジマが入った会社では何かをつくる人間はキジマ一人だった。入社したての頃は、作品の写真を同僚に見せると、凄いとか尊敬するとか言われ、悪い気分ではなかった。ひと月ほど経った日、よく話すようになった同期の女子に、前の晩に完成したばかりの新作の写真を見せた。
「へえ、すごい!こんなの私絶対出来ないよ。ところで今日の髪型決まってるね、素敵」
この一言で、自分はここで完全に孤独なのだとキジマは思い知った。
最初のコメントを投稿しよう!