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それからキジマは、業務外での同僚との会話は浅く無難にこなし、勤務中の雑談にも乗らず、断れる飲み会は断るようになった。仕事以外の時間は自室でひたすら木を彫るか、一人で大量の酒を飲むか、街中をめちゃくちゃに歩くかして過ごした。踵が擦り減って穴が空き、雨や砂利が侵入するようになったスニーカーを、今も履き続けている。
勤務中のキジマは至って真面目だった。というよりは、早く帰りたかったので余計なことは考えず淡々と仕事をした。会議等では、議題について問題点や改善点をよく考え、自分の意見を持ち、主張し、かつ客観的視点も忘れず、他者の言うことに耳を傾け、良いと思ったことは柔軟に取り入れ、表立って仕切りはしないが、話が脱線した際は軌道修正したり埋もれた言葉を汲み取ったり曖昧な部分に鋭く切り込んだりと、議論の進行に貢献した。それはキジマにとって自然なことだった。
彫刻刀を持った瞬間、大粒の涙が次々に溢れ、手元が歪んでよく見えず、指を刺した。大の大人の男が部屋で一人、スタンドライトの下で指から流血しながら嗚咽を漏らす様子はさぞ情けないだろう、と自分で思った。彫刻刀の刺し傷からの血が止まるまでには、いつも二、三日かかる。注意しなければ、絆創膏から滲んだ血が、仕事の書類に染みを作った。
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