口からマグマ

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 自分の担当業務に、キジマは必要性を感じられなかった。キジマだけではなかった。同じ部署の者は皆、「この作業いるう?」と青い顔で口角だけ上げながら、早朝から深夜まで働いていた。必要ないどころか、関わる全ての者を苦しめてしかいないように感じ、仕事にも、それで給料を得ている自分にもキジマは幻滅した。それで退社した。  一歩踏み出す度、一歩前の自分が恥にまみれたものに感じ、痕跡も残さず消えればいいと思った。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいとキジマは思った。街を歩いていて擦れ違う人間がみんな怖くなった。みんな死ね死ね死ねと思ったが、実際に誰かを殺すことはなかった。しかしみんな死ね死ね死ねと思うその瞬間の気持ちは本当だった。キジマは脳内で何人を、何度、殺したか解らない。自分も死にたい死にたい死にたいと思い、それが一人でいる時の口癖のようになった。しかし実際に死ぬことはなかった。死んでいることと生きていることとの違いは、死んでいるか生きているかただそれだけであり、他には全く異ならない。それでもキジマは死ぬことが出来なかった。痛いのも苦しいのも怖かった。どちらがましかと言ったらどちらだろうか、キジマには解らなかった。
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