口からマグマ

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 カップ清酒や五百円ワインやポケットウィスキーやボトル焼酎や缶酎ハイや発泡酒等、コンビニで買えるあらゆる安酒を買ってきては毎日飲んだ。こんな生活嫌だ嫌だ嫌だと考えていたが、それを改める理由がキジマにはなかった。朝に「今日は飲まないでおこう」と思っても、夜には結局同じ状況に落ち着いた。恋人に酒に溺れる醜い姿を晒したくないとか、そういう理由があれば良かったのかもしれないが、そんな相手もいなかった。ちょっと生ゴミを溜めてしまってショウジョウバエが一匹部屋の中を飛んでいたりするのを見ると、僕は腐ってしまったのだろうか、と思った。  実際には彼女がいた時期もあった。就職して二年目に同期の女子に告白され、断る理由もなく、半年間ほど付き合った。新作を見せた時に髪型素敵と言った同期だ。週に二、三度、どちらかの家で夕食を作って一緒に食べ、休日は美術館や映画館へ行った。デートは初めのうち、キジマが行くと言った展覧会や映画に「私も行く」と言って彼女がついてくる、という形だったが、次第に彼女の方から、あの展覧会へ行きたい、等と言うようになった。それは僕が行きたい所であって君が行きたい所ではないはずだ、とキジマは思った。ある日、自分の肩にもたれてうたた寝をする彼女を見て、キジマは、このままこの女と付き合っていたら、何の問題も無く結婚し、子供をつくり、毎日疲れたとぼやきながら倒産しない限りは定年までこの会社に勤め、この街も活気が無くなってきたのうとか言いながらボケつつ平和に死んでいくのだと考えた。この先およそ六十年の光景が、その一瞬に鮮明に思い描かれ、ぞっとして別れた。
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