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大学院への進学には学部生の頃から興味があった。しかし、当時の経済事情では叶わなかった。勤めて三年目、退職の決意が固まった頃、そういや今ならある程度貯えもあるし受けてみるか、と思って入学試験を受けてみたら合格した。
母校に戻って来たからといって、キジマの孤独が解消されるわけではなかった。当時のキジマの同期は、全員卒業するか退学するかしていた。院の先輩や同期は皆、あまり話したことのない学部生時代の後輩達で、キジマはその中でアウェイだった。同期達は、キジマに対する丁寧語と他の者に対するタメ語の使い分けを気にした。キジマの方は大して気にしてなかったが、たまにごっちゃにしては、ごごごごめんああいや間違ったごめんなさい、と謝った。自分の所属研究室においても、今の後輩達にとっては、突然凄い年上の先輩が来た、という状況なのでアウェイだった。それでも、つくる人間に囲まれている、つくる為の環境にいるということは、勤めていた時よりはるかにましだと思った。キジマは彫刻刀を持っても泣かなくなった。
キジマには、学部生だった時からずっと忘れられない女子学生がいた。隣の研究室で、二年後輩のハネキ。キジマが四年生だった時、ハネキは二年生で、研究室に配属になったばかりだった。ハネキは単位が足りず、彼女の同期とは半年遅れでの卒業になるという噂があった。しかし彼女が留年に留年を重ねまだ在学していると聞き、また会えるかもしれないとキジマは思った。
入学式をサボって図書館にいたらハネキに会った。ハネキはにっこり笑って挨拶し、なんでもないことのように、留年しました、と言った。
「ああ、聞いてたよ、よろしくね」
「よろしくお願いします」
あんなに会いたい会いたい会いたいと思っていたのに実際に会うと特別な感動はなく、そんなもんかとキジマは思った。
学内で擦れ違う度に、ハネキはにっこりと笑った。
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