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馬は売って、ここまでの旅費に当てた。
魔物を狩ることで生計を立てる冒険者として、この地で再起をはかる予定でいる。
「一番良いところだけ持っていかないでくださいよ」
「ふん」
恨めしそうな吟遊詩人を鼻で笑う。
この国は有名だ。余所者のカイルでも知っていた。
ガタガタとひどく揺れる馬車の中から、カイルは外を見やる。
歌の通り、この国に草木は生えない。
魔王の呪詛はいまだにこの国をむしばんでいる。
岩や砂礫ばかりの土地は、荒涼としていて物寂しい。
「懐かしいな」
ぽつりとつぶやいたことを、吟遊詩人が抜け目なく拾う。
「以前にもこちらに来たことが?」
「いや、ないよ」
そう答えると、不可解なものを見る目をされた。
真実を語れば、おかしなことをと笑うだろう。
まさかカイルこそが毒の魔王で、千年の時を経て、人間に生まれ変わったなどと。
いつかはここに来るつもりだった。あの頃の自分は、どれだけ恨んでいたのだかと、苦笑してしまう。
かつてのからっぽの亡骸は、いまだに呪いを紡ぎ続け、この国の闇は晴れそうにない。
「吟遊詩人、フェリシア姫についての歌はないのか?」
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