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本編
――むかしむかし、千年もはるか彼方のこと。
この光の名をもつエードラム国に、毒の魔王が生まれました。
神殿の奥深くに閉じ込められた魔王は、美しき巫女姫の命をくさびとして、そのまま封じられました。
魔王はしかし、そのことを恨み、国を呪いました。
そのためエードラム国は草木も生えぬ不毛の地になりました。
今でも魔王は地下深く、怨嗟を吐き続けています。
その声は力となり、魔物を生み出し続け、国の人々はそこに活路を見出しました。
魔物を退治し、その死体から得られる全てを糧としたのです。
そして千年、不毛の土地でありながら、エードラム国は細々と続いていき、冒険者と戦士を育てる貴重な場所となりました。
ゆえに、その神殿の名は……
「くさびの神殿、だろ」
退屈しのぎに歌う吟遊詩人に、カイル・グラシードはそう言った。
邪魔な前髪を指先で払う。茶色の髪を後ろで一つに結び、意志の強さを宿した瞳の目は赤茶色だ。皮鎧に身を包み、武骨な剣をたずさえた姿は剣士そのものだ。
両親が病に倒れ、欲深い親戚に家と土地をとられたカイルは、馬と兵士だった父の鎧と剣を財産に、田舎を旅立った。
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