すべてが嘘になる前に

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「もしもし、桜? あのね、」  ワンコールで出た相手が話そうとするのを待つことなく一気に畳みかける。鈍感な女友達は、彼の視線の意味にも、彼と彼女の関係にも気づいていない。その無邪気さに救われる。 『すきだよ、』  彼の声は届くだろうか。届いてくれたらいい、いつの日かそう願える自分で居たいと思う。  一方的に切った電話の音が耳元で響く。相変わらず公園は賑やかで、小さな子供たちが楽しそうに声を上げて走り回っている。緩やかな風が吹き、ベンチに乗せた花びらがころころと転がった。 『すきだよ』  ホラ吹きの彼がくれたもの、すべてが嘘になる前に。 「……私だって、言いたかったよ」  初めて口にした言葉は、風に紛れて、誰にも届かず消えた。 End.
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