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彼との三年が始まった公園に、気づけば彼女は立っていた。
湿っぽく感傷に浸ってみようかと目をやったブランコは既に家族連れで埋まっていて、格好がつかないなあと思う。仕方なく奥のほうのベンチに腰を下ろす。
すぐそばにはツツジの花が咲いていた。その中の一輪を無造作に引きちぎる。小さく窄まった花びらの裏側を、唇でそっと挟む。そうだ、彼が言っていた。子供のときよく吸った花の蜜にも、毒があるのだと。一瞬舌の上で溶けた甘さがあっという間に消えてなくなる。
気づかないとでも思ったのだろうか。
同窓会の日も、そう、ふわふわと酔っ払った友人の仕草ひとつひとつに動揺していた。あの子の体がふらつく度に、不自然なくらい距離を取ろうとしていた癖に。子供の頃からずっと、いつだって、あんなに嬉しそうに桜の花を眺めていた癖に。
すきだよ、と告げる声は、例えようもなく優しかった。
その優しさに息が詰まりそうだった。ずっと。
もう一輪、指を伸ばす。淡いピンク色の花弁に濃い赤色の斑点が散らばっている、近くで見ると意外にグロテスクな花。あたたかい風におしべが揺れる。ひねくれ者の彼は、きっとこれからも素直になろうとはしないだろう。彼女にはわかっていた。だから、彼女には言えなかった。再び飲み込んだ蜜は、先ほどよりも少しだけ甘い。
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