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高見が十子さんのグラスにビールを注ぎ、自分の分は自分で注いだ。
「十子さん、お疲れ様でした~。かんぱーい!」
「乾杯の意味がわからん。仕事で疲れるのは、当然だ。」
それでも、一応グラスをかちんと合わせてやる。
グラスに口をつけながら、十子さんは周囲をうかがった。
常連客が、ちらちらと様子を見ているのが分かる。
何か値踏みされているような気配だが、敵意は感じられない。
いや、初めて入った居酒屋で、敵も味方もないのだが。
「お二人とも、お仕事帰りですか?」
店主に話しかけられ、十子さんは頷いた。
「今朝、出張で出てきました。」
「そうですか。お疲れ様です。」
店主はあくまでも淡々と、好感のもてる距離感で話してくる。
そこに、特別なものは感じない。
しかし。
「・・・面白い。」
十子さんの呟きは、隣の高見にも聞き取れなかった。
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