2 タカさんの場合

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「居酒屋まるの店主、烏丸泉実と申します。もし、この近くに来るようなことがありましたら、一度お立ち寄りください。」 営業大事、無駄に終わったとしても。 俺から名刺を受けとり、髭の男がふんふんと珍しそうに名刺をひっくり返したり店の住所を指で辿ったりしていた。 住所・・・遠くから来た人だったら、俺の店に寄ることはないかもなあ。 「これも縁というやつかのう。近いうちに一度寄らせてもらおう。」 「ありがとうございます!」 「美味い日本酒も飲みたいもんだ。」 そりゃもう、居酒屋だからな!日本酒はしっかり置いてあるとも! ありがとうございます!お待ちしてます!と頭を下げると、髭の男はうんうんとうなずきながら、マッサージ店の中に入っていった。 ・・・向こう、名乗らなかったよな? しまった、名前を聞き忘れた。 もしかして、一度寄るって言ってくれたのも、ちょっとした社交辞令だったとか? そうかー・・・そう簡単にお客さんは増えないよな。 いいんだ、営業努力大事、しないよりはいい。
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