夜のしじま

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 昨日は人身事故があったせいで帰宅時間が二時間も遅くなってしまった。帰っても息子の圭太は風呂も済ませベッドの中。だから本当は一緒に食べるはずのハンバーグを一人で食べた。  いや、(みゆき)はちゃんと前に座って人身事故でぼやく俺の話を聞いてくれた。わびしいといっても、ストライプのかわいらしいランチョンマット。白いスクエア型のお皿に手作りの幸オリジナルソースがたっぷりかかった焼き立てジューシーなハンバーグに人参の甘いのとブロッコリーにポテト。ほかほかでツヤツヤとした白米。キンと冷えたビールも缶から冷たいグラスに注がれている。  温かい食事を風景を思い出す。  成冨は高速でキーボードを叩くと「よっしゃ」という感じにエンタキーを押した。 「これで地下三階から五階までの計算オッケー」  各フロア毎の見積もりを出し、材料費と技術費、配線の総入れ替えの場合の工事日数も算出。最後にトータルでいくらかかるのか。できればそこまで今日中に済ませておきたい。明日出社してから部長のチェックが入った時、また仕事を追加される場合もあるだろうから。  成富は片肘を机に突き、クルリと俺の方へ身体を向けた。視線が突き刺さる。  成富はいつも俺を間近で、こうやって眺めてくる。遠くから見られていることもしばしば。社員食堂でふと顔を上げると、三つ離れたテーブルからジッと見られてたり。目が合うとヒラヒラ手を振ってくる。人懐っこいやつだなぁ。と呆れながらも愛想笑いを返していたけど、なんとも妙な感じだ。  こういうのってのは、気になりだすと余計に目についてくる。  とはいえ、こうやって仕事のできる後輩の同僚が慕ってくれるのは実にありがたいことなんだ。 「さすが、早いな」  俺は軽いノリでハイタッチしようと左手を掲げた。成富がその手をキュッと握る。  あ、……あら……。 「塩見さんの手、初めて握っちゃった」  至近距離でニコッと微笑む。 「いや、ハイタッチ。イエーイってやつ。え……時代遅れとかある?」  年下とはいえ、三歳だ。ハイタッチを知らない世代とかないだろう。それとも時代はハイタッチからハイ握りに変わった? あ、そう言えば洋画なんかではハイタッチの連続技に握り合うとかそういう高度な技があったじゃないか。これはきっとそういうことなんだ。うん。きっとそうだ。
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