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「被疑者を撮ってくれ」
そう言うと、カメラは素早い動きで車両の端へ移動した。車両と車両をつなぐドアの前まで来ると、カメラは床を映した。そこには無残な女性の遺体があった。
衣服は乱れ、身体や顔にアザがある。髪の毛は地肌が見えるほどまばらに薄くなり、床には黒い髪の毛が散らばっていた。
「いったい…どうなってるんだ?」
神藤が口を開いた。
「現場にいた人々が怒りに任せて暴行を加えたそうです」
五十嵐のその言葉に胸が痛くなり、彩香は目を伏せた。
被害者の気持ちになったら怒って当然だ。怖い思いをし、目の前で人が死んでいったのだから。しかし、これが本人の意思でやったものじゃないとしたら……。被害者にも家族はいるが、きっと彼女にも家族はいるはずだ。例え加害者として葬られたとしても、この姿を見るのはつらいだろう……。
どちらの気持ちを考えても辛すぎる最期だ。
「これから彼女の遺体を解剖に回します。ウイルスの検査も含め、東京の施設に依頼する予定です。何か見ておきたい事があったら今のうちにどうぞ」
本田がそういうと、神藤がモニターを指さした。
「ここを映してくれるか?」
そう言って指さしたのは彼女の腕だった。
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