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「黒崎さん」
再び呼び戻された黒崎は小さなため息をついて立ち上がり、本田のもとへ足を向けた。
「はい?」
「これ、なんて書いてますか?」
ぶっきらぼうにそう言った本田。
「さっき写真を撮ったので署の方で調べますが、おそらく医学用語ではないかと思いますよ。アルファベットで略した文字と数字の羅列を見ると、投薬する薬とその量を手にメモしたのではないかと」
「つまり彼は医療関係者ですか?」
結論を急ごうとする本田に呆れながら、黒崎は辺りを見回した。
「これだけ荷物も散乱してますからどれが彼の私物か分かりませんからね…。身元を確認するまでははっきりと断言できませんが、おそらく医療関係者でしょうね。しかも医者じゃない。看護師か薬剤師ってとこでしょう」
「なんで医者じゃないんですか?」
「医者はカルテに文字を書きますから手に書く人はあまり見掛けません。医者から指示を受けた看護師か薬剤師がその場で手にメモを書いたと考えられます」
「なるほど」
そしてまた二人の間に沈黙が訪れる。
黒崎は困ってしまい、目を閉じてバインダーを抱きしめた。
─── ああ……帰りたい。
心の声なら本田に聞かれることはないだろう。
そして30秒は経過しただろうという頃、黒崎はまた小さく頭を下げて自分の仕事に戻っていった。
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