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五十嵐が神藤に電話すると、JRタワーから歩いて10分もかからない所にある『そば処 信州庵』で会おうと約束を取り付けた。
夕方五時を過ぎると街の中はにぎわってくる。あまり繁華街で会うのは避けたかったが、そば屋ならそんなに混まないだろうと承諾した。
店に着くと神藤は先に角煮弁当をふたつ注文してくれていた。
広い店内には客は五人ほどしかいない。空席が目立ち、足音が妙に響いて聞こえる。
まだ繁盛する時間ではないのだろう。
もうすぐ70代に突入する神藤司教授は、すっかり白髪頭になってしまったが、その落ち着いた表情と知的な振る舞いで、歳を取っても尚、女性から人気のようだ。年配の女性客が神藤をチラチラと見ている。
「やあ、久しぶりだね。元気だったかい?」
神藤がにこやかに声を掛けた。
「ご無沙汰してます。相変わらず僕たちは慌ただしくやってますが元気です。神藤教授はお元気でしたか?」
「ああ、私はね。彩香とはしばらく会ってないからどうしてるのか分からないが、君は連絡を取ってるのかな?」
そう訊かれ、五十嵐は後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべた。
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