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ふと、目の前の男性が気になった。
箸が口元で止まったまま、スマホの画面に見入っている。
いったい何を見ているのだろう。昼間から変な動画を見ていなきゃいいけど。
そんなことを思いながら二つ目のから揚げに箸を伸ばした瞬間の事だった。
目の前の男が急に立ち上がった。
まだ最後の1個のから揚げが半分残っている。冷めきったみそ汁は男が立ち上がった衝撃でテーブルに跳ねた。
女性は目を丸くしながら男を見上げた。
その瞬間、思わず箸で持ち上げたから揚げを落とした。
男の目は明らかに異常だった。
焦点が合っていない。どこを見ているのか……。右目は右を見てて、左目は上を見ている。
歌舞伎じゃあるまいし、そんな見得を切るような技術を一般人が習得しているわけがないのだ。
口元からはだらだらとよだれを垂らし、まるで行儀の悪い犬のようだった。
「あの……大丈夫ですか?」
女性は思わず声を掛けた。
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