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僕と先輩、それぞれにこの屋上から見える景色を写し取る。その作業に没頭してゆく。個々の世界に閉じこもり、目の前のキャンバスを見つめていると、ふと何か周囲の空気が気になって一応、静寂に向かってこう付け足しておいた。
「……まあ、その言葉はありがたく受け取っておきます」
「あぁ。そうしてくれ」
先輩も特に感情を込めずにそう返す。
会話の後処理を終えた僕はまた作業に没頭する。
「で、さっきの話なんだが」
だが先輩はそのまま作業に没頭してくれない。
また僕と先輩の隙間に向かって言葉を投げかけてきた。
「私はここに閉じ込められるなら本望だと思っているよ」
「……そうですか」
特に思うことの無い言葉が、僕の口から漏れる。
「だってほら、こんな空を見ていられるなら。ずっと見ていられるなら。ここに居てもいいとは思ないかい? 君」
たしかに今日は素晴らしい青空だ。
地平線から物々しく入道雲が沸き上がり、そのすそから山々の緑が顔を覗かせている。
「こんな良い天気ばかりじゃないでしょう」
しかし僕はそんな見本のような景色に嫌気が差してすぐ目を逸らした。
「惹かれる気持ちは分かりますが、ただ空が綺麗だからといってここに閉じこもるというのはあまりに短絡的ですね」
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