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何もない絵
とにかく著しい価値観の相違を覚えた。どうやら退部も視野に入れたほうがいいのではないか。そんな思惑でこの理解の及ばない背中を見つめていると、いきなりその背中が「よし」と呟く。
「完成した。見てみるかい?」
正直見たくはなかった。心底先輩を嫌ったわけでは無いが、嫌悪というものは、たちどころに人の態度を変えてしまうものだ。
とは言っても誘われている以上見ないわけにはいかない。
僕は先輩の背中を乗り越えてその先にあるものを覗き込んだ。
そこには、空しかなかった。
いや。空だけしか描かれていないという意味ではない。
それは紛れもなくこの屋上から見える風景そのもので、だというのに先輩のキャンバスにはここから見えるビルも街も木も森も――何も描かれていなかったのだ。
ただ一面に【ごちゃごちゃ】が……そう表現するほかないようなモノが散らばっていて。
その最奥にぽつりと空が浮かんでいる。そんな絵だった。
「これは、どういう…」
「綺麗なものだろう? 私がここから書いた絵だ」
僕の質問が先輩の声にかき消される。
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